表現しむ Oitan

絵本作家ザ・キャビンカンパニー

謎のおじちゃんが繋いだ夢
色鮮やかな大分を廃校で描く

大分県出身の絵本作家、阿部健太朗さんと吉岡紗希さんのユニット、ザ・キャビンカンパニー。

『だいおういかのいかたろう』や『しんごうきピコリ』をはじめ、さまざまな人気絵本を生み出しています。

なかには翻訳されて外国で出版されている絵本も。

昨年は、ゲームやアニメ界の世界的人気キャラクターとコラボした絵本も話題に!

ふたりを訪ねてたどり着いたのは、由布市にある旧石城西部小学校。

豊かな自然に囲まれた、この廃校の校舎がアトリエです。(※アトリエは一般公開されていません)

職員室は作品が生みだされる作業場で、他の教室にはたくさんの立体作品が飾られています。

まるで、おもちゃ箱のようなワクワクするこの空間でどのようにして絵本が生まれているのか、そして、ふたりが絵本に込める想いとは。

 

「絵本作家になる」大分で活動しながらつかんだ夢
▲『だいおういかのいかたろう』(鈴木出版)は第20回日本絵本賞読者賞受賞/『しんごうきピコリ』(あかね書房)は第23回日本絵本賞読者賞受賞

 

―おふたりはどのようにして知り合ったのですか?

吉岡

大分大学教育福祉科学部の同級生だったんです。お互い絵は好きだったけど、本格的に描いたことはなかったんです。

阿部

僕らは高校まで運動部で美術を専門的に学んだことがないという境遇が似ていることもあって、だんだん仲良くなっていきました。

ふたりで一つの作品を描くようになったのは、大学4年生の時。公募で選ばれて行った、由布院駅のアートホールでの展覧会でした。申込書に項目に「ユニット名」を書かなければいけなかったので、ザ・キャビンカンパニーという名前を付けたんです。

吉岡

ふたりの絵に対する考え方を合わせたら、どうなるんだろうと思って。そこからふたりで描きはじめるようになりましたね。

そのころは、将来は絵に関する仕事がしたいと漠然と思っていただけで、絵本作家になりたいとは思っていませんでした。

 

なぜ、絵本作家をめざすようになったのですか

阿部

大学を卒業したころは、イラストレーション、タブロー、立体作品など様々な形の作品を作りました。多様な作品を作る中で、自分達の核となるものは何なのか、段々と思い悩むようになりました。

吉岡

考えていくうちにわかったことがありました。2人が共通して強く惹かれるものは、絵本作家の絵だったんです。絵本というものに、原始的なエネルギーや、人間の根本を垣間見た気がして、どうしても自分も作りたくなったんです。

阿部

絵本作家になるためには編集者に見てもらわなければならないのですが、九州には絵本の出版社はありません。なので、コンペに出したり、出版社に作品を送ったりしていましたが、出版社自体持ち込みを基本的に受け付けていないので、なかなか繋がりませんでした。

3年が経ち、どうにか現状を打破しようと決意し、1回でも編集者に見てもらおうと、一か八か出版社に電話して持ち込みをお願いしてみたんです。そうしたら、東京などの出版社 10社ぐらいにかけたうちの1社が、たまたま清掃のおじちゃんなのか、事務のおじちゃんなのかが電話に出て、「編集者に言っておく」って言ってくれたんです。

次の日、本当に編集者から電話がかかってきて「本当は受け付けていないけど、いいよ」って。やってみるもんだなと思いました(笑)

そして、これまでに描きためた絵本を持って、東京の出版社の門を叩きました。

吉岡

その時持ち込んだ作品はボツだったのですが、それがきっかけで、絵本作家になるチャンスをつかんだんです。編集者と繋がることができた後は、ひたすらラフを描いては出してを繰り返しました。

そうやって出来上がった『だいおういかのいかたろう』が、日本絵本賞読者賞を受賞し、絵本を描いていく上での自信となりました。

阿部

今を思えば、あの「謎のおじちゃん」に感謝ですね(笑)

 

地区のおじいちゃん、おばあちゃんとゲートボール
▲2009年に廃校になった小学校を、2011年よりアトリエとして利用している

 

―廃校をアトリエとして使おうと思ったのは、なぜですか?

阿部

大学を卒業する時に、それまでつくってきた4mを超える巨大な立体作品群や絵画作品を置ける場所を探していたんです。

吉岡

過疎化が進む大分には廃校が沢山あると聞いて、いろんな廃校を見てまわりました。その中でも、ここの学校が気に入ったんです。平屋の白い木造、屋根の赤、空の青、草木の緑。

色が溢れている、この廃校に作品を置いてみたいと強く思いました。

地区の人たちも最初は警戒していたと思います。大学卒業したての何者かもわからない人間が、大切な母校を貸してくださいと、突然言ってきたんです。警戒しますよね。だから、自分たちがどんな人間であるのかを、会話や作品を通じて地道に伝え続けました。今では、一緒にゲートボールをしたり、イベントを開催したり、とても仲良しです。

 

―一緒に開催されているというイベントはどういうものですか?

阿部

2年に一度、アトリエを開放して展覧会や、絵本の読み語りを行なう「チルドレンフェスティバル」を開催しています。

スタッフは私たちと平均年齢70歳ぐらいのおじいちゃん、おばあちゃん。訪れるお客さんへ愛情を持って、みんなで、もてなしています。

この廃校は、みんなの母校なので、再び息を吹き返したのを喜んでくれているようです。

吉岡

みなさん本当にいい人たちで、このアトリエの管理も手伝ってくれています。

農業をしている方が多いので、トラクターやユンボ、草刈機なんかを持って来て知らないことを沢山教えてくれます。

阿部

彼らの作るものは、私たちの作品の何倍もデカいんですよ。何ヘクタールもある田んぼを作り、重機を使って地形を作り上げる。草木花、野菜のことに明るく、いつも学ばせていただき、作品の中に取り入れさせてもらっています。

 

 
▲校舎の中は、ザ・キャビンカンパニーの絵本の中の世界に入り込んだような楽しい空間

 

実はココだった!絵本を彩る大分の風景
   
▲由布岳や大分市内の遊歩公園通りなど、絵本には大分の風景が随所に登場する

 

―絵本のアイデアはどのようにして生まれているんですか?

阿部

何日も二人で話し合って組み立てていく場合もありますし、車に乗っていて「信号の色がピンクになったらどうする」とか、ふたりで妄想の話をしながら、ポン!と一瞬で思いつくこともあります。

日々、何かを見つけようとする心が大切だと思っています。

吉岡

なかなか良い案が思い浮かばなかったり、自分の出したアイデアが、相手にボツにされてしまった時は、頭にくることもあります(笑)

阿部

ケンカもめちゃくちゃします(笑)

でも、その中でキャビンという一つの世界にふたりで向かって行き、頭の中で冒険しながら、作品を作り上げていくんです。

 

―絵本をつくる上で、どんなことを大切にしていますか?

吉岡

絵本って、人間が生まれてはじめて読む本になるかもしれないから、絶対に美しいものにしないといけない。

そんな責任を感じながら、取り組んでいるつもりです。私たちの描く絵本はとにかく色をたくさん使うので、その色使いを楽しんでほしいですね。

阿部

あと、僕たちは「遊び」の心を大切にしています。どんな状況でも遊びをすぐに見つけられる心。

吉岡

太宰治の「お伽草子」の作中で、防空壕の中、父親が退屈している娘に、即興で作った昔話を話し始める場面があるんです。戦時中の陰々滅々とした状況の中でも、遊びを作り出す父親の姿に、心の豊かさを感じました。

それは人間が生きる上で、なくしてはならない、非常に大切な部分だと思います。私たちが作品を作る上での指針です。

 

―大分で創作することは、作品に影響していますか?

吉岡

絵本って、作る人が住んでいる土地の色が出るんですよね。

自分たちの絵本には、山や海、ヤシの木などがよく出て来るんですけど、それは私たちが子どもの頃からずっと見て来た大分の風景や、子どもの頃の体験が影響していると思うんです。

阿部

龍門の滝、由布岳、別府湾、遊歩公園など、大分の風景をモデルにした場面も、絵本にたくさん登場しています。

吉岡

南蛮船もよく出てきます。子供のころ見ていた、竹町商店街のポルトガル船模型や、大分文化会館の緞帳に描かれた、高山辰雄さんの「明ける海」。

あの異文化混ざり合うイメージが強烈に残っているからでしょうね。

自分たちの絵が無国籍な雰囲気に見えると言われるのは、そのせいかもしれません。

 

―これからの目標や、作ってみたい作品はありますか?

吉岡

今は、初めていただいた舞台美術の仕事を完成させることです。

阿部

目の前にある仕事を最高傑作にし続ける、ということを心がけています。

吉岡

絵本の枠を飛び越えた絵本作家になりたいです。

 

編集後記

▲阿部さんと吉岡さんはご夫婦。

 

ザ・キャビンカンパニーの独自の世界観は、大分で生まれ育ち、ずっと大分で暮らしながら、あのアトリエで創作しているおふたりだからこそ表現できるものなのだと感じました。

大分の自然や風景を意識して、あらためてゆっくり絵本を見てみると、絵本の世界がもっと身近に感じられそうです。

 

ザ・キャビンカンパニーの経歴

阿部健太朗と吉岡紗希による二人組の絵本作家/美術家。ともに大分県生まれ。
2009年にユニットを結成、活動を開始し、多数の絵本を出版している。
絵本『だいおういかのいかたろう』(鈴木出版)と『しんごうきピコリ』(あかね書房)で日本絵本読者賞を二度受賞。絵本、立体造形を組み合わせた異色の展覧会を国内外で発表。大分県の廃校をアトリエにし、日々さまざまな作品を生み出している。

【ミニコラム】
大分のおすすめ温泉&グルメ

 

ご家族でよく訪れるおすすめの温泉と、グルメを聞いてみました。気になった方はぜひ足を運んでみてください!

◎おすすめ温泉【かいがけ温泉 きのこの里】

   
▲内風呂(提供:かいがけ温泉 きのこの里)

 

【かいがけ温泉 きのこの里の詳細】

住所/大分県由布市挟間町田代774(別府の森ゴルフクラブ近く)

営業時間/11:00~21:00(最終受付20:00)

入場料(内風呂・露天風呂共通)/大人:350円 ・ 小学生以下:200円

家族風呂(1室50分)/ 1,400円(4名まで)

露天家族風呂(1室1時間)/ 2,000円(4名まで)※土日祭日のみ。要問合せ。

定休日/なし

 

◎おすすめグルメ【中華料理 龍】

   
▲おすすめメニューの水餃子(提供:中華料理 龍 )

 

【中華料理 龍 の詳細】

住所/大分県大分市大字荏隈大石町5-3-3

営業時間/11:00~21:00(オーダーストップ 20:30)※令和3年5月現在

定休日/月曜