先駆的なOitan

コオロギを「食のスタンダード」にと目論む男に
コオロギを食べながら話を聞いてみた

「株式会社エコロギー」代表葦苅晟矢

2022.01/31

葦苅晟矢(あしかりせいや)さんのプロフィール

1993年生まれ。大分県日田市出身。早稲田大学商学部卒業、先進理工学研究科先進理工学専攻5年一貫制博士課程3年。2017年、株式会社エコロギーを創業。早稲田大学生物物性科学研究室で昆虫コオロギの利活用に関する研究に取り組む。現在はカンボジア在住。「Forbes JAPAN 30 Under 30 2019」に選出、文部科学大臣賞(2016)など受賞多数。

▲雑誌「Forbes JAPAN 2019年10月号」特集「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2019」に掲載

 「昆虫食」とは、その名の通り“昆虫を食べること”。それを聞いて思い浮かぶのは、食糧不足だった戦時中の話か、イナゴなどを食べる一部地域の独自の食文化か、はたまたテレビで罰ゲーム的に食べさせられているイメージ。一般的にはまだ非日常的で、正直抵抗が…。 しかし、昆虫は高タンパク、低脂肪であるため、世界の食糧危機を救う食材として、国連食料農業機関が推奨している注目のスーパーフードなんです!

 昆虫の中でもコオロギが持つポテンシャルに目をつけ、大学院在学中に、エコロジー×コオロギ=「エコロギー」というコオロギの食用生産事業を行う会社を立ち上げた葦苅晟矢さん。現在は1年の大半をカンボジアで過ごしながら、コオロギの生産と加工に力を注いでいます。そんな葦苅さんに、この事業を思いついたきっかけやコオロギの魅力、地元日田市の醤油メーカーとコラボした商品の誕生秘話、今後の展開についてzoomでお話を聞いてみました。

コオロギの可能性を感じ
押入れで繁殖させた大学院時代

―今日はよろしくお願いします! 今、カンボジアですか?

 いえ、実は今は東京にいます。昨日まで日田に帰っていました。

―日田はどのあたりのご出身ですか?

 温泉地からは少し離れた上城内町という地域の生まれです。自然に恵まれた場所で、小さい頃からその中で遊んでいました。 よく「幼少期の虫との出会いがきっかけで?」と聞かれることがありますが、あまり関係はなくて…。でも、ザリガニや魚を捕るなど、小さい頃から生き物は好きでしたね。

▲幼少期を振り返る葦苅さん

―コオロギ(昆虫食)をビジネスにしようと思ったきっかけは?

 特別虫が好きだったわけではなく、貴重なタンパク源の食料として注目したのが始まりです。高校時代、寮での食生活が荒んでいて、食に対しての不満が常にありました。そこが原点かもしれません。大学生になり、周りがどんどん起業していく中で流行りのネット系ビジネスというより、もっと人間の生活に関わるようなこと、特に食の領域で何かをやりたいと思ったのがきっかけです。他の人とは違うことがしたかったんです!

―なぜコオロギなんですか?

 昆虫自体タンパク質が多く、ポテンシャルが高いのですが、その中でもコオロギにはタンパク質や鉄分、亜鉛が多く含まれているのが特徴で、注目しました。

―大学院生でコオロギ生産の会社を立ち上げたそうですが、起業当時はどんなことをやっていたんですか?

 狭い学生マンションの一室にある収納スペースに衣装ケースを入れて、その中でコオロギを繁殖させていました。最初は虫かごの中の数匹からスタートし、気づいたら何百匹に。自由研究みたいに「コオロギって本当に増えるんだ」と実感しました。だけど、日本では1000匹まで増やせても1万匹まで増やすのは難しかったんです。コオロギは暖かい環境を好むので、日本の寒い時期には繁殖できなかったり…。そういった意味で、実は大分の地熱でコオロギを生産する可能性を感じています!!

▲カンボジアのコオロギ農家と今後の生産計画を議論している風景

コオロギ醤油にコオロギチップス!?
さて、そのお味は…

―先日、「コオロギ醤油」を開発されたと聞きました。

 今回ご縁をいただいて、日田のマルマタ醤油さんと一緒に「コオロギ醤油」を開発させてもらいました。マルマタ醤油の社長さんが地熱開発も手掛けていらっしゃるので、地熱を利用したコオロギ生産も実現できるといいなと考えています。大分の温泉熱などの排熱活用は面白いなと思っているんですよね。

▲コオロギ醤油 150ml 1850円(税込)

―コオロギ醤油、味見しました! 上品で美味しい醤油の味ですね。

 今回はコオロギ100%ではないんです。元来、醤油は大豆を発酵して作るものですが、大豆の代わりにコオロギを発酵させるには1年半くらい必要で、そんなに待てないので一部コオロギに置き換えて作りました。

―なるほど!醤油にコオロギの粉末を混ぜたのではなく、一部大豆の代わりにコオロギを使用しているということですか?

 そうです!「大豆と同じように、タンパク質が豊富なコオロギを発酵したらお醤油みたいな調味料ができるんじゃないか」という仮説から始まりました。タンパク質を発酵し分解するとアミノ酸になるんですが、コオロギはその中のグルタミン酸を多く含んでいます。これは人間の舌が旨味を感じる成分で、今回作った醤油の栄養価などを分析したら、旨味成分が約1.5倍もあったんです!

―じゃあ、旨味の一部はコオロギってことですよね?なんだか不思議…。

 コオロギの旨味が出た出汁醤油のような感じですね。いつかはコオロギを100%使用した、醤油に近い調味料が作れるといいなと思っています。

―カンボジアではどんな仕事をされているんですか?

 カンボジアに拠点を置いて3年目になります。首都プノンペンに生活拠点を構えながら、現地の農家にコオロギの生産を委託しています。農家は首都から2時間ぐらいのところにあり、そこで育てたコオロギを、首都にある加工所に運び、加工しています。

▲現地の皆さんと葦苅さん(葦苅さん提供)
▲カンボジアの自社コオロギ生産研究所での打ち合わせ風景(葦苅さん提供)

―現地では、コオロギをどのように生産しているんですか?

 カンボジアや東南アジアの各家庭の家の様式は高床式倉庫が多いんです。その軒下に私たちが設計した飼育ボックスを置いてコオロギを飼育してもらっています。3個のボックスから始めて、今では50個のボックスで生産している農家さんもあります。その後、生産されたコオロギを集め、熱殺菌をして粉末状に加工したものを日本に送っています。私たちが技術を提供することで、現地で暮らす人々の生活が潤っているのを実感しています。ゆくゆくは、コオロギ農場の農協のような存在になりたいですね。

▲コオロギ農家とより良いコオロギ飼育についての打ち合わせ風景(葦苅さん提供)
▲コオロギ農家の方と葦苅さん(葦苅さん提供)

―カンボジアではコオロギが当たり前に食べられているようですね。

 屋台文化なので、屋台メニューとして素揚げにして食べています。味を例えるなら、小エビの唐揚げみたいな感じですかね?おつまみやスナックのような感覚です。

―葦苅さんもコオロギを食べますか?

 食べますけど、毎日食べるわけではないです。現地では、なんとなく体に良さそう…という認識で昔から食べる文化があるようです。でも、油で揚げるのが基本なので、栄養価が高いコオロギが健康食材ではなくなってしまっていて…。なので、僕たちは油で揚げるのではなく乾燥させて、「食べて健康になれる食材」として現地でアプローチしたいと、コオロギスナックなどを生産しています。

―コオロギスナック!!!これもちょっと味見してもいいですか…(恐る恐る)。
ギャッ!コオロギ!(涙目)ちょっと食べてみます。
………あれ? あれれ?? 美味しい!

 これは日本では未発売のカンボジア限定の商品で、現地の人の需要を考えて、あえてコオロギの姿を残しています。姿を崩すと、彼らはコオロギとして認識しないので(笑)。日本では、原料として使える粉末状のものを広めていきたいです。

▲現在、カンボジアのみで販売される食用コオロギ「アンコールクリケット」

―日本人にとって昆虫を食べることは、まだまだハードルが高い感じはしますよね。

 私たちは、あえてコオロギと謳わず、原料の粉末をいろんな加工食品に混ぜていき、食生活の中に自然に入り込んでいくアプローチを目指しています。開発した加工技術では、加工を重ね分解しているので、コオロギの粉末というよりもアミノ酸の粉末という状態です。だから、ここまでくると「もはやコオロギなのか?」という感じです。ある意味、コオロギ由来の高機能アミノ酸というイメージ。食べても美味しく、しかも健康になるという機能性を持たせたものです。

―日本で今後商品化したいものはありますか?

 コオロギが食卓に上るような商品を作りたいですね。だから、第一弾で醤油という調味料が完成したのはすごく良かったと思います。あと、カップラーメンなど、食べると罪悪感を感じてしまういわゆる「ギルティーフード」と呼ばれている食品にコオロギの粉末を加えると、旨味が増して美味しくなる上にタンパク質もちゃんと取れるよ、というところを狙いたいです。コオロギの粉末は塩気があるので食事に合わせやすいんです。通常甘い味しかないプロテインも、コオロギプロテインだとスープのように食事感覚で取り入れることもできるなど、いろんな可能性を感じています。

夢はスーパーコオロギを誕生させること!

―これからチャレンジしたいことや夢はありますか?

 スーパーコオロギの開発です!!大分でも魚の餌にフルーツを混ぜる養殖方法がありますが、それと同じで、生き物は餌を変えると味や栄養素が変わるんです。コオロギは魚や牛よりも雑食性が強いので、デザインのし甲斐がありますね!より鉄分や亜鉛が多いものなど、特定の栄養素を豊富に含んだコオロギの生産が可能になってくるなと考えています。あと、ゲノム編集でコオロギの品種改良もしていきたいです。農作物は収穫スパンが1年に1回など時間が必要ですが、コオロギは45日で育つのでサイクルが短く効率もいいので、生産性も高いんです。これからは地球環境のことも考えながら、エコで環境に優しい食糧生産というものをコオロギから作っていきたいです。その上で、栄養補助食品としての認知を広げていきたいですね。

―起業を考えている大分の若い人たちに、何かアドバイスを!

 私がお伝えするのも恐縮ですが、「取り組むべき課題が全うであれば、会社は大きくなる」という話をいろんな方から聞いています。社会的な課題や様々な問題を、いかに自分ごとにできるかというのはとても大事だと、自分自身も常に思っています。

―最後に余談ですが、地元日田のおすすめとかありますか?

 実は、日田にいた頃は当たり前すぎてあまり食べたことがなかったんですが…、昨日帰省した際に日田焼きそばを食べました。麺が焼かれていて香ばしくて、改めて美味しいなと感じました。味付けにコオロギ醤油を使ってみたら面白いなと、つい考えてしまいましたね(笑)。

 大分の地熱で育ったコオロギを使った、旨味たっぷりの醤油が隠し味の名物「日田コオロギ焼きそば」が誕生するかも! 勝手に想像してしまいましたが、面白くなりそうな予感…。近い将来、「最近、栄養偏ってない?」「そうなんよ、偏食気味で〜」「じゃあ、コオロギをちょい足しするか!」なんて会話が当たり前になるかもしれませんね。

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