大分は夢の国?シェアの伝道師が豊後大野に惚れたワケ
社会活動家石山 アンジュ


豊後大野市と東京で二拠点生活を送る石山アンジュさん。平成生まれの彼女は、「シェア(共有)」をキーワードに、シェアリングエコノミー活動家として国や自治体を巻き込み、新しいライフスタイルを提案しています。
なぜ、生まれ育った都会を離れ、大分を生活の場として選んだのでしょうか。
「人と人のつながりが希薄になっているいま、“シェア”は生きていく上での選択肢になる」と話す石山さんは、「そのヒントが豊後大野市にある」と言います。
シェアリングエコノミーの話から見えてきた、“大分の宝”とは。
大分での生活は驚きと発見の連続

-都会育ちの石山さんですが、なぜ豊後大野市で暮らし始めたんですか?
私は横浜市の出身で、就職も東京。それまでは都会暮らしで、田舎での暮らしは経験したことがありませんでした。
豊後大野市では、朝は小鳥のさえずりで目を覚ましたり、タヌキといった野生動物が身近にいたりするんです。
小鳥のさえずりで目を覚ますって、ディズニーの世界みたいじゃないですか(笑)
これまでの生活では考えられない豊かな暮らしがあって、「ここに住みたい!」と思ったのがきっかけです。

-確かに自然は豊かですね(笑)。石山さんの目に大分はどう映っていますか?
それに、これは全国的に言えることですが、地方では自然が豊かなのはどの地域にもある魅力といえます。
ただ、地域創生の仕事でいろんな場所にいきますが、なかでも大分は海と山、そして川の自然のバランスが素晴らしいんです。
それは、大分ならではの魅力だと思います。
-都会から大分に来て変わったことはありますか?
豊後大野に来る前は、生活スペースのなかに虫が出ると怖くて、迷わず片付けていました。
でも、大分の暮らしのなかで気づいたのは、虫たちも捕獲しあったり自然界のバランスのなかで生きているということ。つまり、生態系が見えるんです。
木々や野草などの自然、そして、毎日口にする新鮮な野菜と触れ合ううちに、「自然が循環している」と感じるようになりました。
人間が手を加えなくても、そもそも循環しているんだと。
都会でしか暮らしたことがなかった私にとって、この感覚を得られたのは大きな変化でした。

-では、大分で不便だなと思うところはありますか?
運転免許を持っていない私からすると不便に感じる部分ですね。
「モノ」や「お金」では満たされない部分を「シェア」で補う

-田舎の不便さを感じると、「都会の暮らしの方が良い!」と思いませんでしたか?
都会は困ったことがあればお金やサービスで解決できますが、地方の場合はお金がいくらあっても解決できないことがあります。
例えば、救急車を呼んでも到着に1時間かかることもありえますよね。地方では、そうした非常事態において、いかにお互いが支え合えるかが重要になってきます。
誰かの支えがないと、お金を持っていても生活が成り立たないんです。
言い換えれば、人とのつながりがお金以上に大事な資産ということ。
大分の暮らしの不便さから、その大切さに気づけたのは大きかったです。

-豊後大野で一風変わった結婚式を挙げたと伺いましたが、どんな特徴があるでしょう?
「昔は家で結婚式をしたのよ」という集落のおばぁの言葉から、畑の草刈りから始めたんです。
式場やウェディングサービスは頼まず、会場づくりはもちろん、友人たちの「得意」をシェアしてもらい、手づくりの結婚式となりました。
-まさに石山アンジュさんらしい式だったんですね!そのほかに豊後大野でシェアしているものはありますか?
実は、パートナーと出会ったのもシェアの精神がきっかけでした。元々、東京の渋谷にある「拡張家族cift」というコミュニティに参加していて、そこでは血のつながりがなくてもコミュニティが家族という関係なんです。
そのため、パートナーとはすでに家族という関係でしたが、1対1でこの人と関係を築きたいと思ったんです。

-「家族」をシェアの精神で考えることになったきっかけは、なんだったのでしょうか。
というより、その頃から血縁関係はなくても、家族になれるということは実感していました。知らない人が同じ家のなかで住み、同じご飯を食べ、暮らしていくのがシェアハウスですから。
拡張家族はシェアの精神に基づいていると思います。それは、等価交換ではなく、コミュニティのなかでお互いの時間やスキルをだしあって子育てをしたり掃除をしたりします。
お金で解決できないこと、そして人とのつながりをシェアの精神で補いながら、支えあって暮らすことができるんです。
シェアリングエコノミーで考える大分の未来

-大分ではどんなシェアリングエコノミーを実践できるでしょうか?
考えているもののひとつに、「組合」があります。現在の地域組合では、地域の組合員が組合費を払って、議決権を持ち、会合で議決をとって意思決定をしていくことがほとんどだと思います。
民主的な進め方ではありますが、議論が進まなかったり形骸化したりする可能性が高まります。
そこで、テクノロジーをいれて、例えば1万人が参加して、温泉をどうするかを決めていくんです。パブリックな温泉の経営のやり方や、組合費の効率的な運用の仕方など、議論の内容も広がっていくと思います。
これは、プラットフォームコープ(組合)という組合型のシェアリングエコノミーで、地方との相性が良いんです。
ひとり数千円を払うことで議論に参加できるようにすれば、市場経済に任せなくても温泉が持続可能に維持できていけるなどのメリットがあります。
シェアの精神は、それぞれの「やりたいこと」や「できること」を、必要としている人に提供します。
そして、シェアやシェアリングエコノミーは、あくまで生きていくための選択肢のひとつ。
人とのつながり、支え合いの文化が根付いている大分の良さを生かし、自分も楽しみながら、より生きやすいコミュニティをつくっていきたいと思います。
編集後記
お話から、お互いを思いやるシェアの精神はみんなが幸せになれる選択肢のひとつなんだと実感しました。お忙しいなか、ありがとうございました。
大分ならではの良さ、人とのつながりの素晴らしさを再確認することができました。

石山アンジュさんの経歴
1989年生まれ。社会活動家。2012年、国際基督教大学(ICU)卒業。同年、株式会社リクルートに入社。その後、株式会社クラウドワークスを経て現職。シェアリングエコノミーを通じた新しいライフスタイルを提案する活動を行うほか、政府と民間のパイプ役として規制緩和や政策推進にも従事。著書に「シェアライフ 新しい社会の新しい生き方」。
・シェアリングエコノミー活動家
・一般財団法人Public Meets Innovation代表
・内閣官房シェアリングエコノミー伝道師
・一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長
【ミニコラム①】アンジュさんの好きな温泉「万寿温泉 大山住の湯」

大の温泉好きと豪語する石山アンジュさんですが、最近のお気に入りは「万寿温泉 大山住の湯」だそうです。
「おばぁちゃんがやっている古い温泉ですが、炭酸温泉が味わえる温泉です!」とおっしゃっていました。
少しアクセスが大変かもしれませんが、たまには遠出をしていつもと違う雰囲気の温泉を楽しんでみても良いですね。
【万寿温泉 大山住の湯の詳細】
住所/大分県竹田市直入町長湯7645
アクセス/大分自動車道「湯布院IC」より車で約45分
営業時間/8:00~21:00(最終受付20:30)
入浴料/大人200円、小学生100円
定休日/毎月16日
【ミニコラム②】アンジュさんの好きなお店「いなせ」

続いて、アンジュさんがおすすめするのは、イワシ料理専門店の「いなせ」。イワシの刺身やフライだけでなく、大分名物のりゅうきゅうなどが楽しめます。
新鮮なアジが丁寧に調理されており、アジの無限の味わいを堪能できるでしょう。
大分駅から徒歩でアクセスできるので、近くを訪ねる際はぜひ「いなせ」のイワシ料理に舌鼓を打ってみてください。
【いなせの詳細】
住所/大分県大分市中央町2-8-12小手川商事ビル1F
アクセス/「大分駅」から徒歩約10分
営業時間/17:30〜23:00
定休日/なし