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女優・財前直見が語る
大分暮らしの素晴らしさ

女優財前直見

2022.03/23

 数々のドラマや映画などで活躍する女優の財前直見さんが、子育てを機に地元大分に移住して14年。現在は仕事がある時に東京へ行くスタイルで、普段は大分県内にある自宅で家族と暮らしています。お父さんが育てた野菜や果物を収穫したり、加工したりする様子は、たくさんのメディアでも紹介され、目にしたことがある人もいるのでは。東京での女優としての生活から一転、大分でのスローライフについて、ご自身の気持ちの変化や、改めて思う田舎の素晴らしさなどについてお話を伺います。

旅行がお仕事?な
キャンペーンガール時代

―生まれは大分ですか?

 当時両親は兵庫県姫路市に住んでいて姉は姫路で生まれましたが、私は父の実家がある大分県大田村(現・杵築市)で産婆さんに取り上げてもらいました。小学校3年生の時に大分市明野に引っ越して、それから高校卒業まで大分で暮らしていました。小さい時は人見知りで大人しく、家で遊ぶタイプでしたね。

―芸能界を目指したきっかけは?

 中学時代は「たのきんトリオ」の田原俊彦さんが好きで、「私は女優になる!」って言っていた時期もあったんですけど(笑)、高校生になるとそんな気もなくなり。でも知り合いの知り合いの方が、キャンペーンガール募集に私の写真を勝手に送っていたようで、「最終選考まで残ったから、東京に来ない? 水着を買ってあげるから」って言われて行きました(笑)。最終審査は、スーツを着たおじさまたちがずらりと並ぶ中で、水着姿の女の子4人がウォーキングしたり、自己紹介したり。他の子たちは本物のモデルさんだったからウォーキングもちゃんとしていたし、私はど素人だから、受かるわけないって思っていたら、「受かりました!」って電話が来て…。決まったからには挑戦してみるしかないと思い、上京しました。

―最初はどんなお仕事を?

 キャンペーンガールだったので、いろんなところに連れて行ってくれるんですよ。そう、最初の仕事は「日焼けするために、グアムに行ってください」だったんです! 当時(旅費も)高かったと思うけど、西城秀樹さんが日本テレビのバラエティ番組の司会のアシスタントをやっていた時には、仕事でハワイに連れて行ってもらったり(笑)。国内外、とにかくいろんなところに連れて行ってもらいました。楽しかったですね。

シリアスからコメディまで
長年第一線で活躍

―お芝居の仕事はいつ頃から?

 デビューして1年以内にはドラマのお仕事もやっていましたね。自分じゃない人になれるのが面白かった。でも演技の勉強は全くしていないので、監督さんの指示を聞いて、現場で覚えるスタイルでした。
 キャンペーンガールが落ち着いた頃、仕事がない時期があって、マネージャーから「もう、仕事辞めて大分に帰ったら?」って言われたんです。元々人見知りで自分を出すタイプじゃないし、淡々としていたから、「コイツ、欲がないな」と思われたみたいで。でもその頃はもう演じることが好きになっていたから、なんでそんなこと言うんだろうってショックで。でも、「本気で女優業をやろう!」って思うきっかけになりましたね。「大分には帰んないぞ!」って覚悟も決まって、すごく良かったなと思います。自分が変われば周りも変わるというか、やる気に満ちていて。その後は映画『天と地と』など、大きな作品のオーディションが決まったりもしました。

―女優業の転機となった作品は?

 当時は「余計なことはしゃべるな、笑顔で楚々としていろ」と指導されて、“画面で見て綺麗な人”のイメージを守っていたので、いただける役がどれも2時間サスペンスの“影を持った女”って感じが多くて。「綺麗どころでいるのは嫌だなー」って思っていたところに、『お金がない!』というドラマの出演が決まって。最初に聞いていた設定と土壇場で企画内容が変わって、プロデューサーから「すみません、コメディ作品に変更したんですけど…」って言われた時は、「やったー!」って思いました。元気な人の役は演じていてすごく楽しくて。この作品をきっかけに、コメディタッチの作品も増えていきましたね。

「子どもは大分で育てたい」
財前直見・移住計画

―女優として第一線で活躍しているのに、大分に移住されました。きっかけは?

 これはもう子どもが生まれたからですね! 昔からずっと、「もし子どもが生まれたら、私が育った環境で育てたい」という気持ちもありましたし。事務所に相談したら、「子育てならいいんじゃない?」って言ってくれて。元々妊活を始める前に、それまでのレギュラーの仕事は落ち着いていたので、周りに迷惑をかけることもなく移住できました。40歳で子どもを産んで、子どもが9カ月の時に大分に戻りました。

―大分での暮らしはどうですか?

 マネージャーや仕事に関係する人もいないから変にチヤホヤされないし、周りが女優さん扱いしないのがいいですね。大分にいると素の人間でいられるというか、女優という殻を東京に置いてきた感じ。両親の娘でいられるし、息子のママでいられる。大分に戻ってきたことで、普通のママでいられることが一番良かったかな。“三つ子の魂百まで”って思っていたこともあって、子どもが4歳になるまではほとんど仕事も入れないで、子育てに専念しました。親が一緒だからご飯も出てくるし(笑)、なんて楽なんだろう!って。手塩にかけて、完全母乳で育てました。子育てを100%楽しめて、面白かったですね。東京はお金をかけた贅沢はいっぱいできるけど、心の贅沢は田舎の方がいっぱいありますよね。家で育てた野菜を食べたり、温泉に入ったり、心身ともに良いというか。心の豊かな贅沢はやはり田舎での生活ですね。

―大人になって改めて感じる大分の良さとは?

 東京だと隣の人との付き合いもなく、挨拶もしないじゃないですか。子どもには「挨拶しなさい」って教えるのに、大人がしない姿を見せるのは嫌だなと思っていて。大分に帰ってくると周りはみんな、私が小さい頃から知っている人たちばかりだから、もちろん挨拶もするし。知らない人でも、高校生とか自転車ですれ違う時に「こんちわー」とか挨拶するじゃないですか。そういうのが気持ちいいなぁって。
 あと物々交換も楽しいですよね。うちで採れたカボスをあげたら、あちらが作った白菜が返ってくるみたいな。心が豊かになります。釣ったばかりの新鮮な魚もいただいたり、食に関しては本当に贅沢だなって思いますね。東京だったら全部買わなきゃいけないし、そもそも野菜を育てる環境もないし。

▲「写真協力:深澤慎平/宝島社(『直見工房』より)」

家族も全面協力
大分での暮らしをメディアで紹介

―大分の番組では実家で財前家のレシピを紹介したりしていますが、ドラマに出ている女優さんが、家族と普通に生活している姿が放送されていて不思議な感じです。

 そうそう(笑)。普通に家にいるからメイクもしないじゃないですか。それを番組のスタッフさんが撮って帰るんですよね。今まで「大分と東京で、オンとオフが切り替えられます!」って言っていたのに、最近は家の中までカメラが来るんですよね(笑)。しかも家族全員が出なきゃいけない番組が増えて(笑)、「これ、プライベートも全てさらけ出してるぞ!?」って。普通に家族で食卓を囲んでいる姿も放送されていますが、なぜか家族みんな協力的で(笑)。

―財前家のレシピの中で特に好評なのは?

 「ハヤトウリの黒糖漬け」というのがあるんですけど、これが好評で。何人かにレシピを教えてアドバイスしたら、今度はその子たちがまたほかの人たちに教えて。「お裾分けしたら、『このハヤトウリはおいしいですね!どうやって作るんですか?』って聞かれたのが嬉しかった」って言われました。私女優なのに、最近料理番組みたいな仕事が多くて(笑)。いっぱい作った時はお裾分けしたり、ドラマの現場に持って行ったりしますね。

―大分でチャレンジしたいことはありますか?

 レシピ本は出したんですが、やっぱり作り方を見せてほしいという声もあって。YouTubeか何かわからないけど、お料理教室というか、セミナーみたいなものもやった方がいいのかなーって少し思ったりもしますね。
 両親はまだ元気で野菜作りをしていて、昨日もみんなでシイタケのコマ打ちをしたんですが、「あ、これ、農業体験したい人にやってもらったらよくない?」って話をしたんですよ(笑)。うちの両親が楽できるのはもちろんですが、農業体験はやっぱり楽しいですもんね。息子も力仕事ができるようになってきたので、重たいものを運んだり手伝ってくれますよ。

▲「写真協力:深澤慎平/宝島社(『直見工房』より)」

ハッピーな思考で前向きに
健康な心の持ち方のすすめ

―社会に出てちょっと疲れていたり、日々時間に追われていたり。スローライフに憧れる若者も多いと思いますが、先輩としてアドバイスを。

 今は物価が高いのに給料が上がりにくくて、生活のために働いている人が多いと思います。せっかく大分にいるんだから、自分で野菜を作ったり、魚を釣ったりしたらお金もかからないし、リフレッシュを兼ねて、できることをやってみてほしい。人間の原点である「生きる」「食べる」ための体験をしている人の方が、いろんなことができるし、工夫もする。「最終的には、お金を持っている人より強いんだよ」って言ってあげたいですね。

 義務教育で、「みんな同じようにしましょう」と育った世代は、誰かが教えてくれないとできなかったり、言われたことはするけど、それ以上を自分で工夫してするということが少ないと思うんです。料理もそうですけど、アレンジ力を磨いていくには、一度チャレンジしたことに、「じゃあこれもできるんじゃない? あれもできるんじゃない?」って発想を持つことが大切だと思うんです。そしてそれができたら、自分を褒めてあげることですね。がんばったんだし、褒められるとやっぱり嬉しいじゃないですか。料理でも分量ってありますけど、お母さんの料理は毎回違いますよね。その時の家族の体調や使う材料などでアレンジするから、微妙に違う。だから飽きない。料理って意外と頭を使うんだなって思いました。

 後悔している人は、過去に目線がいっているんですね。不安や心配って、みんなが思っているほど大きなものではない!今、目の前にあることに集中していれば、頭の中はそのことでいっぱいだから過去が気にならない。それを続けていく。病気なんかも、病気するんじゃないか?って思ったら、そうなっちゃうから。ぜんぜん大丈夫!って思うことが大切。気持ちというか、脳をバカにするというか。いい言霊を自分で発していれば、良いことが寄ってくる。ハッピーになることを自分に言い聞かせると、それが当たり前になってくると思うので。

大分発ドラマでの女優活動は
下駄でダンスして、焼きそばを焼く!?

―最後に大分発地域ドラマ『君の足音に恋をした』について教えてください。

 これは…下駄でダンスをするドラマです(笑)。

一同爆笑

―財前さんの役柄は?

 日田焼きそばを焼いているおばちゃんです。実際にお店で習って焼かせてもらいましたが、また料理だし、やってることは普段とあんまり変わらないっていう(笑)。
 ドラマでは、年齢に関係なく、みんながフラットに人として友達になれる、お互いを認め合えるんだなって感じますね。ダンスが下手でもいい、やって楽しいっていう精神にとても好感が持てるドラマです。

―ダンスの方はどうでしたか?

 いや、まぁ…この歳になってダンスを踊るとは思いませんでしたね(笑)。でも音楽も軽快で、ダンス自体覚えやすくて楽しかったですよ。ただ、「寒かった」という記憶が強烈に残ってます(笑)。「なんでダンスの日に限って寒いの!」って。年末に撮影したんですけど、季節の設定的にもペラッペラなんですよ、衣装が!(笑)。寒かったー。

財前直見さんのプロフィール

1966年大分県生まれ。1985年、女優デビュー。数多くのドラマや映画などに出演し、シリアスからコメディまで幅広いジャンルで活躍。現在は大分県在住で、2021年11月には、大分での暮らしを綴ったライフスタイルブック『直見工房 財前さんちの春夏秋冬のごはんと暮らし(宝島社)』を発売。NHK大分『いろどりOITA』にて、大分での暮らしや財前家のレシピを紹介する『財前直見のおおいた暮らし彩彩』に出演中。テレビ東京系で2022年4月8日からスタートするドラマ『先生のおとりよせ』にも出演する。

▲衣装:イヤリング、リング UNOAERRE

大分発地域ドラマ『君の足音に恋をした』

2022年3月23日(水)22時から NHK BSプレミアムで放送
日田市の特産品・日田げたをはいて地域を盛り上げようと活動するげたダンスチームで、高校生二人が繰り広げる青春ラブストーリー。寒さを感じさせない財前さんの演技力とダンスにも注目です!

◎著書紹介
『直見工房 財前さんちの春夏秋冬のごはんと暮らし』

子育てを機に、大分県に移住した財前直見さんのライフスタイルブック。財前家が受け継いできた畑と山で収穫した農作物で、料理を作ったり、果実酒を仕込んだり、漬け物を漬けたり…。自然の恵みを味わう67のレシピをはじめ、11の生活の知恵を紹介しています。20余年の東京生活の末にたどり着いた、大分暮らしの魅力が存分に詰まっています。

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