黒枝兄弟の挑戦 選手と経営者の二刀流で世界を目指す


大分市出身の自転車ロードレーサー黒枝士揮・黒枝咲哉の兄弟が、大分市を拠点とするプロサイクルチーム「スパークルおおいたレーシングチーム」を立ち上げ、3年目のシーズンがはじまった。今季は国際自転車連合(UCI)に登録し、活躍の舞台が広がった。秋に地元で開催される「ツール・ド・九州」と「OITAサイクルフェス」での表彰台を目標に、年間30以上のレースに挑む。

───今季は国際大会に出場できるUCIコンチネンタルチーム登録に必要な10人体制に拡大しました。既存の4選手にロード3選手とトラック3選手が加わり、新たな展開が生まれそうですね。

3年目でここまでチームが大きくなれたのは想定外でしたが、責任とプレッシャーを感じています。今年は3月からはじまったUCI公認レースを中心に参戦します。さらに国内最高峰クラスの国際レースとなる「ツール・ド・九州」が、10月6日からの4日間で開催され、6日はプロローグとして小倉城クリテリウムから始まり、7日以降は日田市や福岡県、熊本県を舞台としてレースが繰り広げられます。その前の週(9月30日から2日間)には「OITAサイクルフェス」もあります。地元での2連戦は、多くの方に自転車競技を見てもらい、スパークルおおいたを知ってもらうチャンスだと捉えています。

UCIに登録できたのは大きな成果です。もう一段階上のレベルの大会に出場できるのは嬉しいです。メンバーの雰囲気はいいし、コミュニケーションも取れています。


───今季の手応えは、いかがですか?

チームを立ち上げて3年目、自分自身のコンディションは、これまでで一番いいです。世界を目指せるチームになり、気合いも入っています。地元選手が地元のレースで優勝する。それが兄弟でワンツーフィニッシュなら、最高に盛り上がることは間違いない。そこを目指したいと思います。

シーズン前にロードを専門とする選手で沖縄に強化合宿に行きました。気温が高い中で高強度のメニューをこなせました。また、寝食を共にすることでコミュニケーションが図れ、チームに一体感が生まれたのを感じました。今季はこのメンバーで戦うぞ! という雰囲気ができています。僕個人としては、腰を痛めて練習に参加できなかったので、回復後に再び沖縄で一人合宿をして追い込みました。コンディションが上がり切れていないのでシーズン序盤は苦戦すると思いますが、その中でどれだけ勝負できるかを見極め、チームのためにできることを考えたいと思っています。

───2人は選手でありながらチームの立ち上げに奔走し、今も運営に携わっています。選手と運営の『二刀流』の難しさを感じているのでは?

「選手と運営の仕事の割合は?」と聞かれることがあるのですが、チームの立ち上げ当初は運営8割、選手2割と言っていました。それほどチームの立ち上げは大変だったし、軌道に乗るまでは選手として練習する時間が取れずに歯がゆい思いをしました。今は3年目で少しずつ慣れましたが、選手と運営の仕事を分けて考えたことはないし、全てがコミットしています。どちらも10割の力を注いでいます。

ゼロからのスタートだったので大変でした。ただ、自分で何かを創るのは好きなので、僕は楽しみながら選手と運営の仕事をしています。モチベーションは、前例のないことができることです。大学卒業後にプロ選手になって、いつか大分のプロチームで活動することが夢でした。それを誰かが作るか、自分が作るかの違いだけで、今こうして大分で自転車選手として競技を続けられていることに満足しています。
───そもそも2人とも前所属は日本トップクラスのチーム。練習環境も整い、選手としての待遇も良かったと思います。それを捨ててまで地元でクラブを作ろうと思ったきっかけは?

咲哉とチームの立ち上げを決めたのが2020年です。地元の九州・大分に戻って、地域密着のチームを作りたい。自転車というツールを使って地域交流し、自転車をフィルターに地域の魅力や景色を発信して、地元を盛り上げようと話し合いました。当初は僕一人で小さな地域クラブを立ち上げ、徐々に大きくしていけばいいと思っていました。咲哉が一緒にやると言ってくれたときは、嬉しかったし、一緒に成功したいと強く思ったのを覚えています。咲哉がいたから挫けることなく頑張れました。僕一人だったら3年で国際大会に出場できるようなチームになっていなかったと思います。

士揮が大分で小さなチームを作ると聞いたときに、やるなら大きな風呂敷を広げたいと思いました。自転車界では『黒枝兄弟』というブランドが少なからずあったので、「兄弟で一緒にやった方がインパクトもあるし、多くの方に興味を持ってもらえる可能性もある。」と直感で決めました。前所属チームは何も不自由のない最高の環境と待遇でしたが、いつかは大分に帰って自転車競技をメジャーにしたい、下の世代にいい環境を整えたいという思いがありました。それが早まっただけという感じです。


───チーム立ち上げとコロナ禍が重なり、厳しいスタートになったと思います。当時を振り返ってもらえますか?

コロナ禍でどこのチームも運営が厳しい中でのスタートでした。アクセルを踏んでいるところに急にブレーキがかかった感じでした。進むべきか引くべきか。手探りが続き、不安になることもあったし、無謀な挑戦だと揶揄されることもありました。それでも突き進まなければ夢の扉は開かないとの思いだけでした。その結果、最高の選手たちとスタッフが集結しました。支えてくださるスポンサーやサポーターもいました。多くの方のおかげで今日に至っています。感謝しかないです。

多くの選手がコロナ禍で練習ができず、レースもなかった。僕もいろいろなことを考えましたが、自分の存在価値とは何だ、自分にできることは何だと考えたときに、チームの立ち上げに関われる機会があったことはポジティブな要素でした。自分にできることの可能性が増えたと思えました。
───大分にはサッカーやフットサル、バレーボール、野球のプロチームがあります。他の競技との差別化をどのように考えていますか?

自転車はフィールドを持たないスポーツです。集客の課題はありますが、一方で競技だけでなく、それぞれの地域のキレイな景色を発信することができます。自転車競技は他のスポーツに比べて、地域活性化やまちづくりとの相性が良く、切り口次第で地域に貢献できることは他のスポーツに比べて多いと思っています。

自転車はSNSとの相性もいい。他の競技にはない『映える動画や写真』を発信できます。僕は、プロとは「見られてナンボ」と思って、そこは意識しています。スパークルおおいたのSNSがハイクオリティと言われるのは、クリエイターの方々の協力もありますが、自分がカッコイイと思うことを具現化できているからだという自負があります。こだわりが強過ぎて、時間がいくらあっても足りないこともよくあるのですが、ダサいことはしたくない。見られることを意識し、多くの方に興味を持ってもらうのはプロの仕事だと思っています。
サッカーやバレーボールに比べるとチーム創設は遅いですが、「他のクラブがやらないことをやろう」が合言葉になっています。今は選手が情報発信できる時代なのでもっともっとSNSを活用したいです。


───苦しみながらも2シーズン経験したことで得たことは?

選手をやりながらチーム運営をすることが、こんなにきついとは思ってませんでしたが、地元や全国でも応援してくれる方がいるのがモチベーションになっています。個人としては苦しいことを乗り切るために我慢できたことはメンタルの強化につながりました。何に対しても動じなくなりました。応援してくれるサポーターも増え、地域密着のチームになってきていて、少しずつですが大分で自転車文化を根付かせることができていると思います。ただ、認知度はまだ低いので、もっとメディアに出てスパークルおおいたをアピールしなければいけないとも思っています。

昨年はJCL(ジャパンサイクルリーグ)で4勝、バンクリーグ総合優勝と目標の5勝を達成できました。結果には納得していますが、チームが強くなっても見てくれる方がいないと何の意味もない。自転車競技全体の育成、普及もしなければいけないと痛感しました。それは僕がプロになってからずっと思っていたことでもありました。日本一になって、日本代表になって活躍すれば人生は変わると思っていましたが、そうではなかった。強くなれば見てもらえるというのは幻想でした。自分が想像していた世界を実現するためには、競技人口もそうですが、愛好家も含めて自転車に興味を持つ人を増やしたいと思っています。
───そのために必要なことは?

これまでの規格にとらわれないアイデアで世間の注目を集めることです。昨年は日田市の川開き観光祭で、あの“巨人”をイメージさせる『筋肉スーツ』を着用して、サイクリストのパレードに参加しました。日田と言えば、『進撃の巨人』の作者諫山創さんの故郷です。筋肉スーツを着ることにメンバーからは、疑問の声もありましたが、絶対に面白い、バズると思ったので押し切りました。インパクトがあり、多くの方に取り上げてもらえたので成功でした!


───自転車文化を大分に定着させるための今後のビジョンは?

僕は自転車競技が盛んなイタリアに2年ほどいましたが、幼い子どもからお年寄りまでロードバイクやクロスバイクに乗っていて、買い物やカフェに行くのも自転車を使い、自転車仲間のコミュニティがあります。大会は草レースから大きなレースまで、ほぼ毎週のようにあるし、自転車は身近な、気軽に体験できるスポーツとなっています。日常に自転車があるライフスタイルを提案し、イベントやレースを増やしていければと思います。九州はまだまだその域に達していませんが、実際に関東や関西ではサイクリストが増え、盛り上がっていますし、伸びしろはあると信じています。

アジアツアーでトップ3に入れるような大きなチームになり、大分から世界に羽ばたきたいです。そのためにはまず今季、僕らが活躍すること。兄弟でそれぞれ1勝することがノルマです。そして、僕自身が自転車界のアイコンとなり、自転車がある暮らしを広めたいと思います。オシャレにカッコよくをコンセプトにSNSで発信し続けます。

https://www.instagram.com/colors_cafe0403/



Sparkle Oita Racing Team HP https://sparkle-oita.jp/
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士揮 https://www.instagram.com/shikikuroeda/
咲哉 https://www.instagram.com/sayakuroeda/