挑戦するOitan

「絶対!」と言い続けることで実現させる
最強ポジティブな名物館長

天領日田洋酒博物館高嶋甲子郎

2021.12/24

 日田市にある「天領日田洋酒博物館」は、洋酒とウイスキーのコレクションや関連グッズを展示するマニア垂涎の博物館です。1920年アメリカの禁酒法時代のオールドボトルや1970年代のティファニーとシーグラム社のコラボボトル、ポスターやグラス、コースターなど大小様々な販促物から販売用の什器まで、その数およそ3万点‼「厳選!ニッポンの行くべき博物館20」にも選ばれています。

▲天領日田洋酒博物館

 これらすべてを集めたのは、館長を務める高嶋甲子郎(こうしろう)さんです。父親の影響で、小学生の頃に洋酒の魅力に取り憑かれた高嶋さんのコレクター人生は、中学1年生の時、近所の酒屋に頼みこんで手に入れた1枚のウイスキーのポスターから始まります。大学生やサラリーマン時代も稼いだお金や時間をウイスキーにつぎ込み、40年かけて収集したコレクションは世界にここだけの激レアアイテムなど本当に貴重なものばかり‼今では全国はおろか世界にまでその名が知られる博物館となりました。

▲第1号コレクション。思春期にアイドルや女優ではなくゴリゴリの商品ポスターを手に入れて喜ぶ辺り、すでにマニアの頭角を現しています

 これらのエピソードだけでもなかなかの人物ですが、さらに話を聞いてみると、ものすごくクセスゴな人物で紆余曲折な人生を送ってきたことがわかりました。日没にまでに及んだロングインタビューの中から、選りすぐりのエピソードをお届けします。

魂の“イタコ鑑定“が涙を誘う
洋酒のスペシャリスト

 これまで洋酒博物館や高嶋さんを取り上げた媒体は数知れず。旅行雑誌から企業の広報誌、博物館を扱う専門誌やテレビ番組、そして漫画「クッキングパパ」までバラエティー豊か。

 最近では人気テレビ番組「探偵!ナイトスクープ」に出演し、依頼者の亡き父親がコレクションした7000点ものウイスキーのミニボトルを、鑑定士として1本ずつ査定しました。番組では評価額だけでなく、生前の父親がどんな気持ちでこれらを集めたかを熱く語って聞かせる”イタコ鑑定“で、最初売る気満々だった依頼者にコレクションを引き継ぐことを決心させてしまいました。そして最後には高嶋さんも依頼者と一緒に号泣。その姿が話題となり、ネットのトレンドニュースに。その回は神回との呼び声も高く、後日傑作選にも選ばれています。
 このように、施設紹介だけでなく鑑定の依頼も多く、某番組ではお酒関連のものはまず高嶋さんが鑑定し、その内容を基に番組内で評価しているそうです。

▲約1万点が並ぶ、高嶋さんのミニボトルコレクション

日田の洋酒博物館に
ブラっとタモリ

 そんなウイスキーに対する情熱で生きる男・高嶋さんは、ウイスキー好きの著名人にも詳しく、「もしかしたら来てくれるかも…」と日頃から準備万端なのだとか。

 3〜4年前の8月のある日、団体客の対応をしていたところ、入り口にひとりの男性が現れました。白のジャケットに白のニット帽といういで立ち、トレードマークのサングラスこそありませんでしたが、すぐにタモリさんだと気づきました。奥さんが隣町出身ということで里帰りのついでにお忍びで訪れたそうで、周りに気づかれないよう、緊張しながらもほかの人と同じように館内を説明して回った高嶋さん。真横に立った時、タモリさんが発するオーラがレベチだったそうで、「(何かを)グワーッと感じたんですよ。で、『スゲー!俺もなりてー!』っち思いましたね‼」と、”タモリになりたい“という独特の表現方法で当時の感想を語ってくれました。
 滞在時間は90分程度でしたが事前に用意していた雑誌にサインをしてもらい、「今度はゆっくり、ウイスキーを飲みに来るから」という言葉をかけられました。実は後日、共通の知人宛のタモリさんからの手紙に「また洋酒博物館に行きたい」と書かれていたそうで、「絶対、また来てくれるって確信しています‼」と高嶋さん。握手してもらった優しい手が忘れられないそうです。

▲サインをもらった雑誌。「来てくれるんじゃないかと思ってました!」

岩をも貫くしつこさで
ニッカのお宝をゲットだぜ!

 洋酒博物館の顔と言える存在が、中央に鎮座するニッカウヰスキー創業当時の蒸留釜。NHKの朝ドラ「マッサン」のモデルになった、日本のウイスキーの父で創業者の竹鶴政孝が設計したものですが、なんとこの蒸留釜はニッカウヰスキーの本社にすらない、この世に唯一のとんでもない代物なんです‼

▲存在感抜群の蒸留釜。しかも直接触れます

 1989年日田市にニッカウヰスキー九州工場がオープンした際、施設の目玉として展示されていましたが、工場は1999年に閉鎖します。知人から閉鎖の噂を聞きつけた高嶋さんは思いました、「それ、絶対欲しい‼」と。居ても立っても居られず、蒸留所の受付へ駆け込み交渉するも、世界に1台のニッカの宝を「はい、どうぞ」ともらえるわけがなく。たまたま通勤路だったこともあり、そこから頻繁に通っては受付で門前払いされましたが、決して諦めませんでした。

▲「工場長!またあの人が来てるんですけど…」。受付でのやりとりを再現

 半年間通って、やっと工場長とご対面。「将来洋酒博物館を作ってこの蒸留釜を設置し、これまでの竹鶴先生の功績や文化をみんなに伝えたい‼」とプレゼンします。熱い思いと共に、持参していた数十万点を収めたコレクション集を見せたところ、工場長の表情が一変。本社の役員会で話をしてくれて見事了承、無事契約成立となりました。みんなに「ありえん‼」と言われましたが、不可能を可能にするのが高嶋甲子郎なのです。

▲ニッカの九州工場から運び出される蒸留釜(高嶋さん提供)

相次ぐ困難をも糧にする
最強のポジティブお化け

 強い信念で意志を貫き、貴重な蒸留釜をゲット。2011年4月に念願の洋酒博物館をオープンした高嶋さんでしたが、その後は順風満帆かと思いきや困難も多く…。

 大型観光バスが日に何台も訪れる観光地と成長したある日、日田市を水害が襲い、建物に直接的な被害はなかったものの、客足が激減しました。さらに2016年4月の熊本・大分地震では、二度と手に入らない貴重なウイスキーやブランデーの瓶が割れ、結構な数(額)の損害が。状況確認のため博物館に入った瞬間、辺りに漂ういい香り‼「もうね、床を舐めようかと思ったですもんね‼(泣)」。
 そして、同年7月31日、今度こそ立ち直れそうもない大事件が起こります。高嶋さんが経営していた4つの会社が、漏電による火災で全て消失したのです。

 当時、複数の会社と博物館を掛け持ちし、寝ずに働いていた高嶋さんは7月中旬頃から過労で目の焦点が合わず、ハサミを持つ手が震えていたといいます。体力自慢の元ラガーマンも、さすがにこれはヤバいと思っていた矢先の火事。「亡くなった親父はじめ、ご先祖様たちが『このままだとお前死ぬぞ』と、親父が作った大切な会社を燃やしてまで僕を守ってくれたんじゃないかと思っています」。

▲失った会社の一つ、オーダーマットレスの工場で自らミシンを踏む高嶋さん(高嶋さん提供)

 心身と共に大ダメージを受けるも、火事の翌日から博物館を開けたという高嶋さん。驚く友人に、元気に「会社燃えた〜‼」と一言。そんな高嶋さんの噂が街中に広がり、励まそうといろんな人が代わる代わる会いに来てくれました。友人知人はもちろん、金融機関の支店長さんまで訪れ、返済期限の延期など様々な方法で協力や応援をしてくれたそうです。
 この頃高嶋さんは、人生で一番泣いたといいます。それは火事で会社を失ったことではなく、みんなの熱い気持ちに対する嬉し涙。そしてこう思いました。「絶対にV字回復して、この時応援してくれたメンバーに恩返しできる人間に、絶対なろうって。これが僕の一番のモチベーションなんです」。”会社は燃えたが、心も燃えた!!“、当時を振り返り、明るくネタにできるのがなんとも高嶋さんらしいですね。

 以前は団体客や観光客はもちろん、併設するバーや博物館での100人クラスの二次会まで夜も盛り上がりを見せていましたが、ここ2年はコロナ禍で売上が9割減。急に暇になったので何かできることを!と考え、昨年4月からYouTubeチャンネルを開設。寸前までガラケーだった高校の後輩と試行錯誤しながら、毎週金曜を目安に動画配信を行っています。
 そんな高嶋さんの夢は、YouTubeでチャンネル登録者数120万人を獲得することと、大好きな日田をほろ酔い・ベロ酔いの街にすること。「いろんなことがあって白髪もだいぶ増えたけど、やれることをコツコツと、1個ずつやっていきたいね」と目を輝かせました。

▲日田杉を使った12mの大型カウンターが目を引く「Kt’s Museum Bar」

おわりに

 高嶋さんの話には「絶対‼」という言葉が度々登場します。これまでもそうだったように、強い信念で思いを遂げる、そして自分に「絶対できる‼」と言い聞かせるように。そんなポジティブな高嶋さんのリアルガチな話を、ぜひ博物館で聞いてみてください。前向きなパワーをもらえますよ。

▲漫画「クッキングパパ」にも登場する、レミーマルタンのケンタウルス像
▲こちらがアメリカの禁酒法時代の密造酒。しかも未開封!
▲トリスウイスキーの1950年代のボトルとディスプレー

高嶋甲子郎さんの経歴

1968年鹿児島県生まれ大分県日田市育ち。40年間集め続ける貴重な洋酒コレクションを常設展示する博物館と、併設するバーを運営。コレクションは博物館以外にも数万点を保管しており、入れ替え展示なども行っている。

天領日田洋酒博物館

大分県日田市本庄町3-4

電話 0973-28-5266

開館時間 11:00〜17:00

入館料(ソフトドリンク付き) 800円、小中学生500円、5歳以下無料

休館日 水曜

https://tenryo-hita-whiskymuseum.com/

 

Kt’s Museum Bar

営業時間 20:30〜深夜0:30

チャージ 300円(おつまみ付き)

※不定休

 

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