誰もがネットで
お店を開けるってマジ!?


大学在学中にリリースしたネットショップ作成サービス「BASE(ベイス)」。誰もが簡単にネットショップを開ける仕組みは瞬く間に人気を集め、現在のショップ開設数はなんと180万ショップを突破して国内最大級! 2022年8月には大分県と包括連携協定を結び、地域活性化に向けたユニークな提案に期待が寄せられています。穏やかな語り口調が人を惹きつける、大分市生まれの鶴岡裕太CEOにお話を伺ってきました。

───いきなりですが、鶴岡さんがネットにアクセスしはじめたのは大分トリニータの情報を調べることが最初だったと聞きました。

そうですね(笑)。トリニータは小学生の頃から好きで、掲示板などよく閲覧していました。大分市営陸上競技場で試合をしていたトリニティ時代から観戦していて、高校は情報科学高校だったので九州石油ドーム(当時)にもよく通っていました。実は今もホームゲームを観戦するために帰省することが多く、今年も何度か足を運びました。地域との密着度がハンパなく、老若男女問わず家族で観戦しているサポーターを目にすると、もはや大分の社会インフラのひとつになっているなと思います。
───この言葉を聞いてサポーターも感激すると思います! でも小学生の頃からネットに親しんでいたのですね。

6歳上の兄の影響もあったのかもしれません。自分専用のパソコンを持ったのは大学に入ってからですが、情報科学高校ではプログラミングや電子回路の勉強もしていました。卒業後は就職する同級生も多かったのですが、僕は将来どんな職業に就くか決めてなかったし、情報系のスキルをもっと学びたくて東京の大学へ行かせてもらったんです。大学では同じ高校を卒業した友達がいなくて、サークルに入る気にもなれなかったので、逆にちゃんと学校へ通って、アルバイトもやるマジメな学生でした(笑)。
───クラウドファンディング「CAMPFIRE」の創業者、家入一真さんと知り合ったのも、この頃ですか?

そうですね。大学3年の終わり頃、Twitterを見ていたら家入さんが立ち上げたハイパーインターネッツ(現:株式会社CAMPFIRE)という会社がインターン生を募集しているという告知が流れてきたんです。もともとクラファンに興味があったし、同じ九州出身でもあったし、ヒマだったし(笑)、なんとなくノリで面接に行ったところ採用されたんですよ。そこから家入さんのところに入り浸りになって、いろんなプロダクトについて話し込むようになったんです。時にはゲームの話なんかで盛り上がったりしながら、そこから面白いアイデアが出てきたら、僕がコードを書くみたいな感じで。優秀な先輩たちからプログラミングやビジネスのことなども教わったりして、そのうち大学も休学しちゃいました。
───よほどウマがあったんですね。

家入さんの考え方は、資金力に余裕がある人や大きな企業に向けたサービスというより、広く、あらゆる人たちが簡単に使えるプロダクトを作りたいというものなんです。立場的に弱かった人が強みを出すとか、大企業だけの特権だったものを小さな会社や個人が使いこなせるようになるとか、そこがカッコイイなと思っていたからコードを書いていて楽しかったですね。僕からアイデアを出すこともあって、家入さんに「こういうのをやりたいんですが、どう思いますか?」と尋ねると、否定することなく「鶴ちゃん、それ超イイね」みたいな感じで始まって、そこからいろんな助言をしてくれるんですよ。

───そうやって考えた中のひとつがBASEだったんですね。

きっかけは母親がやっていた婦人服のお店でした。大分に帰った時、「私もインターネットで服を売ってみたいんだけど、どうすればいいか難しくてわからない」と相談されたんです。僕なりに調べてアドバイスしたんですけど、この時母の言葉をきっかけに、母と同じように地方にいてネットショップをやってみたいと考えている人が他にもいるのではないかと、その需要に気づかされました。さっそく家入さんに相談しながらコードを書き始め、サービスを開始したんだけど、仲間だったり、応援してくれていた人たちが拡散してくれたおかげで気がついたら1ヶ月で利用者が一気に1万人を超えてました。
───1ヶ月で1万人ですか!

最初は会社組織とかはなくて僕の個人プロジェクトみたいな感じで始めたんですけど、ここまで会員数が増えて個人でできる範囲を超えてしまったので、より安定的にサービスを提供するために、そこから慌てて資金を集めて会社にしたという珍しいパターンです(笑)。

───eコマースの大手といえばAmazonや楽天が浮かびます。

ブログを書くみたいに気軽に始められ、初期費用は不要、決済も装備し、売上の入金も比較的早いという点が、ネットショップを開設したい人たちのハードルを下げたのだと思います。まだ、規模が小さなビジネスをしている人にしてみれば、大手eコマースだと思った以上に費用がかかります。また、独自のネットショップを開こうにもデザインやWebの知識が必要だったり、決済機能など煩雑な手続きがあるから途中であきらめる人もいる。誰もが平等に使えるインターネットサービスを前提とするならば、誰もが参入しやすいビジネスモデルを作りたいと考えたんです。そうすると対象となるユーザーはAmazonや楽天とも被らない、たとえ地方在住であっても個性的な商品・サービスを提供する個人やスモールビジネス事業者が中心になってくるんです。たとえばご自身で手掛けたハンドメイドの雑貨を売る方とか、生産量は限られているけどそこでしか手に入らない特産品とか。
───先ほど話されていた家入さんの考え方に繋がってきますね。

それまでeコマースは大きいビジネスをする人たちばかりがフォーカスされていて、スモールビジネス事業者は、プラットフォーマーからは対象にされない存在でした。でも僕は、むしろそういう人たちがネットを使ったビジネスをすべきと、ずっと考えていたんです。だから既存のマーケットを破壊するというのではなく、新しいマーケットを生み出し、一緒に成長していくのがBASEの役割なんです。急激に成果が出るビジネスモデルではないですが、淡々と長くやり続けることで多くの価値を生みだせる市場だと思います。
───「一緒に成長していく」という点は、他のeコマースとの大きな違いですね。

スタンダードプランは初期費用も月額の定額利用料も無く、個別ショップの売上が発生する度に手数料をいただくビジネスモデルなので、ユーザーさんも売上をあげるために努力するぶん、僕らも良いプラットホームになるよう磨きあげなければ、両者の成長はあり得ません。
───ネットに慣れていないユーザーが多いぶん、初歩的な問い合わせも多いと思うのですが、手間と煩わしさを感じることはありませんでしたか。

問い合わせがあるということは、僕たちのプロダクトを正しく説明できていないか、使いづらいかどちらかです。むしろ質問してくださる事が、サービス改善に繋がるヒントになると、ありがたく感じます。BASEをリリースした当初の機能やサービスはごく限られており、物足りないと感じるユーザーさんも多かったと思います。その声をひとつひとつ拾い上げ、コンスタントに追求していったことが、BASEの価値を引き上げたと思います。たとえばSNSへ簡単に広告出稿できる機能とか、抽選販売できる機能とか、今では多岐にわたるサービスを提供しています。「YELL BANK」といって、資金調達できる金融サービスも始めています。良いプロダクトを作ることが僕たちBASEの強みなので、ユーザーが喜んでくれることにコミットしていくことは大切にしていきたいですね。

───金融決済機能が最初から組み込まれているのは大きいですよね。

ネットショップを運営するには決済の導入が不可欠ですが、ショップオーナーさんが個別にクレジットカード会社やキャリア決済などの契約を結ぶのはとてもハードルが高く、審査の時点で脱落してしまうケースがほとんどです。
サービスを始めたばかりの頃は、他社の決済サービスを導入していたのですが、ショップ様への提供体制にリスクがあったため、決済部分を見直す必要がありました。
そこで、ショップオーナーさんの負担がなく、スムーズに決済を導入できるように、独自の決済システム「BASEかんたん決済」を構築しました。
BASEを始めた当初から、ショップオーナーさんが簡単に決済機能を導入できるということにこだわりを持っていて、そこは絶対にブレない軸として持っていました。
ショップオーナーさんの活動を、表には見えにくい「決済の簡易化」という部分からサポートさせていただけたことで、多くの方にご利用いただけているので、ブレない軸を大事に実現できたことで自信にもつながりました。
───大分のように地方に住んでいる事業者が、ネットで成功するポイントって何でしょう。

まず地方のショップで売られている商品は、特異性や希少性が高く、同じようなものはあまり見かけません。その場所でしか買えない物とか、その人にしか売れない物といったものですね。BASEの場合、「どこよりも安いものを買いたい」というより、「本当に欲しいものを買いたい」という世界観を持ったお客さまが多いようです。そういった意味では、地方在住は強みになってきます。
───eコマースは、地方であろうが関係ないですからね。

地方に住んでいながら東京の人に商品を販売できるということは、他の地方に住む人、場合によっては海外の人も販売が可能ということになります。これまでは限られた商圏で勝負をすればよかったものが、ネットだと一気に競合が増えるのです。チャンスは大きいけど、ライバルの数も大きいので、特定の人に評価される努力をしないといけません。このあたりの感覚は都心に住んでいるとよくわかるのですが、地方在住だとなかなかピンと来ません。だからこそ多くのコミュニティと関わっておくほうが情報が入ってくるので有利です。リアルでなくとも、インスタやTikTokといったSNSサービスも一般的になっています。コミュニティを通じて自分のブランドの理解者を増やすことは大事だと思います。
───地域によって傾向はあるのですか。

BASEの場合、人口に対する出店比率は、南に行くほど多い。東北方面は少ないけれど、沖縄は多かったりとか。ジャパネットたかたさんをはじめ九州は通販の会社が多いこともあってか、大分というより九州全体としてはネットショップの展開に抵抗がないのかもしれません。
───BASEのユーザー、つまりショップのオーナーにはどんな特徴がありますか。

やはり少人数で運営しているオーナーが多く、個人オーナーが約7割強を占めています。販売商品はオリジナルブランドが8割を超え、実店舗を持たず副業でやっている人も多い。最初にお話したように、もともとBASEは自分のネットショップを簡単に作れるということ以前に、個人や小さなチームを強くするためのプラットホームになることを目指してきました。オーナーの特徴を見ると、僕らが描いていた傾向が色濃く反映されているのかなと思います。

───BASEを立ち上げて今年で10年になりますが、これだけの規模の企業経営者になって考えることも多いのでは。

ただの学生エンジニアだった僕が、180万ショップを超えるネットショップのプラットホームを運営し、250人の社員を抱える会社のオーナーになったことに伴う責任感や緊張感は強く感じています。けれど社員とはフラットな関係を維持したいという考えは変わりません。コロナでリモートワークが増えていた時期もありましたが、落ち着いたら一緒に食事をしたりコミュニケーションの機会を増やしていきたい。ネットが当たり前のZ世代が注目を集めていますが、僕としては特定の世代だけでなく、僕より上の世代も含めて全体を最適化できる共通な価値観が必要とされる時代になっていると思います。
───大分で起業を目指している人たちにアドバイスをいただけますか。

これもまた先ほど話したeコマースの話と同様、近くに良いコミュニティがあるかどうかが大切です。東京とか地方とかは別にして、周りに切磋琢磨できるコミュニティがあるかどうかが大事です。そう考えると意識が高い人が集まってくる都市部の方が有利なこともあるのでしょうが、地方で起業する理由は何なのか、どういう方向性を辿っていくべきか、最初のアジェンダ設定をどう見極めるかが大事になってくると思います。
───大分県とも包括連携協定を締結しましたね。

BASEが持つノウハウを生かして、大分の地域課題を解決するお役に立てたらと考えています。県産品の販路拡大、情報発信、県内の中小企業事業者に向けたDX支援と、eコマースのプラットフォーマーならではの面白い地域活性化策が提案できるのではないかと、僕たちも張り切っています。

BASE公式サイト http://binc.jp
