ごとう姫だるま工房
二代目 後藤 明子(めいこ)さん・後継者 後藤 久美子さん

作り手の人となりが、そのまま姫だるまの表情に。 明るく、あたたかい工房が、多くの人の笑顔をつくります。
御年85歳の二代目 後藤 明子さん、詩吟、カラオケ、グランドゴルフに社交ダンスとやりたいと思ったことは全部やってきたと終始笑顔。現在は野菜やお花作りに熱中し、毎朝約6kmのサイクリングにも出かけるという。趣味が姫だるまの絵付けというお茶目な一面も。
その明子さんの後継者の後藤 久美子さん。明子さんとの絶妙のやりとりに、奥行きのあるやさしさを感じました。
───姫だるまの由来を教えてください。

二代目/後藤 明子さん
初めは竹田市内だけだったんよ。最初は「起き上がり」って言ってたんです。転んでも立ち上れという意味を込めてね。お正月の縁起物です。数がものすごく多くてね。正月の2日の朝に、今年もいい年でありますようにということでね、各家庭の戸を少し開けて「オキャガリ、オキャガリ」っち言うて、だるまを投げ込みよったんですよ。昔は家の玄関にみんな鍵かけてなかったからね(笑)。そして、後から祝儀をもらって回りよったんよ。家によって祝儀の多い、少ないがあってね、多い人には次の年は大きいのを投げ込んだりしてね(笑)。地域の青年団やら消防団の人たちが投げ込んで回りよったから、その祝儀は青年団や消防団の活動資金に充ててたんです。だいぶ経ってからは、外から竹田に越されてきた人も増えて「オキャガリ」って言うて投げ込んだら「起き上がりっちゃなんか!」って飛び起きったって笑い話もあるくらいです。
───初めは「起き上がり」という呼び方だったんですね。「姫だるま」という言い方はいつからなんですか?
二代目/後藤 明子さん
慶安2年からの伝統でね。「起き上がり」という言い方から「姫だるま」っち名前を変えたのは昭和27、28年くらいから。だるまを箱に入れて出すようになったときに名前も変えたんですよ。この辺の人たちは今でも「起き上がり」っち言いますけどね。当時は5、6軒は作り手がおって、そのせいで、一軒の家庭に2個とか3個とかだるまが入りよったこともあるんですよ。
───その風習は今でも続いているんですか?
二代目/後藤 明子さん
形は違うけどしてますよ。地元の方たちに事前に注文を聞いて作ってます。商工会の青年部の人たちが注文を取りまとめてくれてね。
───どうりで町の至るところで姫だるまを見かける訳ですね。

後継者/後藤 久美子さん
基本、お正月の2日にお届けしています。毎年一個ずつ増えていくんです。どこへ行ってもあるもんだから観光に来た人たちが目にされて不思議に思われるようです。ただ、今は数年待ちの状態で。前に、新潟から新婚旅行で来られた方がいて、何年間か待ってもらうことを言うと、それでも欲しいということで予約してくれてね。その後、竹田市内の居酒屋に行ったら、その方とお店の店主が意気投合してね、新しいのはあげられんけど、古いのならいいよってだるまを頂いたそうなんです。いろんなお店に飾ってもらうことで、姫だるまが橋渡しとなって人と人の縁が広がっていくのは本当に嬉しいですね。
───後藤朋子さんはいつからだるまづくりを?
二代目/後藤 明子さん
私は昭和31年、19歳から姫だるま作りをしてます。最初の15年くらいは下作りだけ。下作りというのは、木型があって、重りを下において、それに水張り、のり張りで新聞紙を巻く。その上に手漉き和紙を巻いていくんです。そこまでが下作り。そこから胡粉っていう牡蠣の殻を精製したもので下塗りしていくんです。そしてその後に塗る赤い色は泥絵の具(顔料とゼラチンで作る)を使うんです。昔からのやり方、昔からの素材で、何ひとつ変わってません。変わってるのは人間だけ(笑)
───今はお二人でどのような分担作業をされているんですか?
後継者/後藤 久美子さん
お母さんがだるまに黒の墨を入れます。主に目と眉ですね。そこまでの工程と朱などの色がついてるのは私がやってます。それから下作りは何人かに手伝ってもらってます。姫だるま作りには15から16の工程があるんです。乾かしては作業、乾かしては作業なもんで、時間がかかるんです。
一番難しいのは顔の表情。眉と目がお母さん、口など色がついている箇所は私が担当ですが目も眉も二つあるから難しいんですよ。
二代目/後藤 明子さん
いやいや口は にっこりせんといけんけん、もっと難しい(笑)
───お二人の仲の良さが伺えます。一番難しい顔の表情はどのような気持ちで描かれているんですか?
二代目/後藤 明子さん
並んでる昔のだるま見て、「あ〜こんな顔も描いたんやな〜」というのはありますけど、その時その時で精一杯最高の笑顔を描いてます。頂いたみんなに喜んでもらいたい、これを見てみんなが笑顔になれるようにと願ってね。

───長年やっていてデザインを変えようと思ったことは?
二代目/後藤 明子さん
それはないですね。最初のまま、なんにも変わってないし、これは変えようがないんです。造形や美術に詳しい人たちが見ても「無駄がひとつもない」とみんな言います。初めて作った人はよく考えて作ったもんやなあと思います。
強いて言うなら、買った人が自分で顔だけ描いてくれるといいな〜と思うけどね(笑)
───姫だるまは作り手がいなくなり、一時消滅したと聞きますが?
二代目/後藤 明子さん
お父さん(初代・後藤恒人さん)が、ある年末の大晦日にだるまが描かれていたお皿を見て、「昔あった起き上がりしちみろうか」って言いだしたそうで。お父さんは、当時町会議員をしていたから竹田を代表する工芸品があったらいいなあ、観光にも役立つんじゃねえかってことでね。それが昭和27年。当時商家に残っていただるまをなんとか見つけて、それをもとに再現したのが始まりです。
姫だるまは無病息災、家内安全、厄除けといった御利益があると言われています。描かれた松竹梅は、松はお父さん、一年中青々として家を潤すように、梅はお母さん、寒いときでも花を咲かす、竹はこどもで、すくすくと元気に育つように、そしてこのおでこにある金色は太陽をあらわす。背中の部分の模様は宝珠といって厄除けのために、そして女性の子宮もあらわしています。子孫繁栄を願ってね。姫だるまには、無駄なものはひとつもないんです。

───久美子さんの後の後継者は? お孫さんが?
二代目/後藤 明子さん
本人次第!です(笑)。ほやけど孫が興味をしんけん持ってます。お嫁さんもやる気満々。ひとりでできる仕事じゃないけんね、家族みんなで助けあって続けていけたらいいなあと思ってます。
後継者/後藤 久美子さん
私は最初は子育てしながら手伝ってましたが、その時から楽しかった。ここには似たような気持ちの人が寄ってくるんだなと思いますよ。息子のお嫁さんもそうですし、孫もだるまさんが大好きって言ってますしね(笑)
二代目/後藤 明子さん
そのためには、だるまを作るためのいろんな原材料が続いていかんとね。そっちの方が大問題! 昔は大分県に手漉き和紙を作る業者が何十軒、竹田だけでも3軒あったんやけどね。障子や襖の生産が減って、機械和紙になりだして、手漉き和紙を作るとこがなくなっていったんです。手漉き和紙というのは、山から切り出して、蒸して、皮を剥いてなので手間がかかるんです。
後継者/後藤 久美子さん
何十年か前、竹田の手漉き和紙の作り手さんがいなくなって、どうしようってすごく困ってた時、佐賀の大学に通っていた息子と娘が、大学の授業で和紙の勉強をしていて、そのつながりで手漉き和紙の作り手さんを紹介してくれて。おばあちゃんと私で佐賀まで訪ねて行ったんです。昔の手漉き和紙は繊維がいっぱい入ってたから、貼った後に凹凸を削らんといけんかったんですが、そこの手漉き和紙は繊維がまったくなく、和紙の綺麗さ、丈夫さを実感できます。だから今のだるまは、ほんと美しい。今ではわざわざ姫だるま用に作ってくれているんですよ。
絵の具を作る人がいなくなった時も、違う業者さんにお願いしたんやけど、刷毛目が出てしまって全然塗れないんです。いろいろ探して、今は姫路から取り寄せてます。
昔は大分県のものじゃないととか、竹田のものじゃないととか、思っていた自分もいましたが、作り続けることが一番大切なことで、そのために他県の業者さんでも探していくってことを教えられたかなと思います。

───お忙しい中でも工房の見学も積極的に受け入れていますが?
二代目/後藤 明子さん
やっぱり嬉しいじゃないですか。お客さんが来てくれるというのは。仕事するより嬉しい(笑)北は北海道から、南は沖縄まで全国から来てくれます。
後継者/後藤 久美子さん
2000年に大泉 洋さんが出演して熱烈なファンが多かった人気番組「水曜どうでしょう(北海道テレビ)」で取材を受けてから増えましたね〜。(取材中も愛媛県からお客さまが工房見学に)
───観光案内所的な役割も担ってますね。
後継者/後藤 久美子さん
来てくださるお客さまから教えられました。北海道から福岡まで飛行機で飛んで、そこからレンタカー借りて女の子ふたりで来てくれたお客さまがいたんです。「これからどこに行くの?」って聞くと「もう帰ります」って言うから、「え〜〜、もうちっとどこかいいとこ探しちゃらないけんでって」ね。それからですかね、うちに来てくれた県外の人たちに観光名所なんかも教えてあげたりしてね。
だるまが人と人の縁をつないでくれてますね。違う仕事してたらこれほど人の縁には恵まれてませんでしたね。
二代目/後藤 明子さん
そういう意味ではお父さんの願いが叶っているかな。私がはじめて66年あっという間でしたけど、お客さまがいるからこそ一つのことを続けられました。

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ごとう姫だるま工房
大分県竹田市吉田889-1
0974-62-3735
インスタグラム https://www.instagram.com/himedaruma_goto/
※工房見学は事前にご予約ください。