大分マリーンパレス水族館 うみたまご
飼育部獣類グループサブリーダー 澤田逹雄さん

ヒレ脚チームのリーダーは
4人のパパで、名投手(でも実はサッカー経験者)
遠投する餌を、トドが上手にキャッチするというパフォーマンスが朝のテレビ番組で紹介され「トドもすごいが、投げる飼育員さんのコントロールがすごい!」「プロ野球からスカウト来るんじゃね?」とSNSで話題になった。このパフォーマンスを披露してくれたのは「うみたまご」の飼育員・澤田逹雄さん(41)とトドの雄、玄太郎くん(12才)。巨大な体をのっしのっしと動かす玄太郎くんはもちろん可愛いのだが、笑顔が眩しすぎる澤田さんは、人間の女子達をも虜にしそうな大人の魅力漂うイケメン。ベテラントレーナーとしてのこれまでや、動物達の命と向き合う想い…。かっこいいだけじゃない、澤田さんのお話に、水族館の奥深さを知ることができました。
_(ドアを開けて「お待たせしました!」と澤田さん登場。ぎょぎょ、かっこいい…という、心の声が漏れそう…)。(気持ちを落ち着けて)お忙しいところすみません! 今日はよろしくお願いします。ところで、突然ですが、澤田さんって大分出身じゃないんですね。
はい、広島県出身です。長崎大学の水産学部で魚の研究をしました。その時は海生哺乳類にはそんなに興味はなかったんです。実家が山の中だったので、海が見えるところに住みたいとか、仕事をしたいという海に対する憧れの気持ちが強かったんです。大学2年生の時にインターンシップで広島県の宮島水族館に実習に行ったのが、水族館で働きたいと思うようになったきっかけです。そこで水族館の仕事の魅力にはまって、水族館一本で就活しました。
_うみたまごに就職したきっかけは?
長崎の大学に行き、九州の人達の心の熱さとかあったかさを実感していたので、できれば九州で就職したいな…とは思ってたんです。本格的に就活が始まって、採用募集がないか全国の水族館に手紙を出した時、当時のマリーンパレスから「まずは実習に来てください」と連絡があり、2週間の泊まり込みの実習に参加しました。宿直の人と一緒に夜の水族館を見回ったりし、水族館浸けの日々を過ごしました。仕事の奥深さや、職員の情報に触れ、ここで働きたいと思うようになったんです。その後、面接の連絡をいただき就職が決まりました。

_じゃあ、大分に来てからは長いですね。
マリーンパレスからうみたまごに変わる時の準備にも関わりました。かれこれうみたまご歴は18年ですね。プライベートでは、大分で結婚して子どもが4人います。
_もうすっかり大分人ですね。今更ですけど、大分での暮らしはどうですか?
海・山・川が全部揃ってるし、ちょっと行けばうみたまごを含めレジャー施設も充実してて、湯布院や別府など観光地もあって、いいところですよね。当初「大分ってどこ?」って思ってたんですけどね(笑)。でも、住んでみると、すごくちょうどいい。自然も豊かだし、フェリーで四国や関西ともつながるし…。僕は釣りが好きなので、年中いろんな魚が釣れるのも楽しみのひとつです。大分市内や佐賀関、ちょっと足を伸ばして津久見や佐伯にも釣りに行きますよ。
_澤田さんのお仕事の内容を教えてください。
僕は、飼育部の中の獣類グループのヒレ脚チームをまとめています。ヒレ脚チームには、セイウチ、トド、アゴヒゲアザラシ、ハイイロアザラシ、ゴマフアザラシ、コツメカワウソ、モモイロペリカン、ミナミアメリカオットセイがいます。10名のトレーナーがいるんですけど、経験年数に応じて、1人で複数の動物を担当しています。
_近年はベビーラッシュだったようですね。赤ちゃんの飼育はやはり難しいですか?
まずは赤ちゃんがお母さんのお腹の中で十分に生育して、生まれてきます。生まれた後は、お母さんが落ち着いて子育てできる環境を整えること。そうすれば、アザラシはちゃんと子育てします。生まれた後、お母さんがちゃんと育ててくれればそんなに難しいことはないんです。アザラシは2週間、トドは1年くらいで離乳します。昨年は、雌のトド・ポロが出産後うまく授乳できず…、人工保育で育てましたが、母親代わりはすごく大変でしたね。
_ところで…。遠投パフォーマンスがバズりましたね!
ちょうどコロナが一旦落ち着いた、昨年の春休み中だったかな? お客さんがSNSであげてくれた動画がバズって。すごい反響をいただきました。

_コメントがたくさん書かれてましたけど。野球のスカウト来そうとか(笑)
あははは(笑)。実は、ただ投げるだけじゃダメで、玄太郎も意欲的にキャッチしてくれないと成立しないパフォーマンスなんですよ。玄太郎のモチベーションを上げる方が大変なんです(涙)。パフォーマンスに組み込むと、周年やらないといけなくなるのが難しいところで…。鰭脚類は、1年のサイクルがあるんです。例えばトドだと、6、7月は交尾の適期・出産。8、9月からは毛が生え変わって、10、11月は「体がだるいなぁ」って時期。12月からは気温も下がって、体もスッキリして「よっしゃー!」とヤル気になる時期になるんです。だから、1年間の中では、12月から翌年の5月ぐらいまでが一番いい時期なんですよ。逆に6~7月は発情期で、餌よりもメスがいい!ってギラギラした時期なので、今(取材時は7月)が一番集中力がなくて、パフォーマンスも苦労します。調子のいい時は、玄太郎も頑張って魚をキャッチしてくれるけど、今はピンポイントに投げないと取ってくれない(涙)。練習してると「え?誰の練習?俺の練習?」って思うこともあります(笑)。失敗が続くと玄太郎のモチベーションも下がるし、あからさまに「ちゃんと投げろよ…」みたいな顔をするので、今は「本当すみません。僕のせいです…」と言わざるを得ない時期なんですよね。初めての方は気付かないかもしれませんが、常連の方は「今日はめっちゃ玄太郎いい顔してますね!」と言ってくださるんですよね。そういう風に見ていただけると、とても嬉しいです。
_色々とご苦労があるんですね(涙)。この遠投パフォーマンスは毎日やってるんですか?
夏休み期間中は毎日パフォーマンスします。毎日全力で魚を投げるので、肩が結構張っちゃうんですよね…(涙)。
_魚ってツルツルしてるから、投げるのも難しそう…
柔らかい魚は投げにくいので、張りのある魚を選んで投げます。冬は風が強いので、風を読んで投げないといけないんです。投げた魚がクルクル回ってしまうと玄太郎がキャッチしにくいので、魚の持ち方・投げ方も工夫してるんです。パフォーマンスを突き詰めていくと、そういうところまでいくんですよ(笑)。
_でも、実は野球じゃなくて、サッカーしてたんですよね?
そう、しかもキーパー(笑)。

_仕事でやりがいを感じる時は?
言葉が通じないのがすごく大きいかな。何を思ってるんだろう?考えてるんだろう?って、いつもすごく不安に思います。僕たちは給餌をする中で、目の動きやちょっとした表情の変化、こちらのサインに対しての反応で、彼らのことを理解しようとしています。サインは僕らにとって唯一のコミュニケーション手段。「これをやってね」「はい、わかりました」「合ってますよ」というやりとりを、なるべく正確に伝えるため餌を与えるんです。自己満足かもしれないけど、その中で、本当に分かり合えたなと感じた時はすごく嬉しいです。「餌をあげたらいうことを聞くんでしょ」と、よく言われるけど、嫌いな人から餌をもらわない動物もいるんです。すごく賢かったり単純だったり、好き嫌いがはっきりしてたり、動物それぞれに個性がある。担当のトレーナーが変わると餌を食べなくなることもあります。
2019年から三重県鳥羽水族館とセイウチの短期ブリーディングローン(希少な動物を絶やさず、また増やしていくために、動物園や水族館同士で動物を貸したり借りたりする制度)を行っています。600キロを超えるセイウチを繁殖適期に合わせて、目的地まで連れていくのは日本でも初めての試みで。その時も動物たちは不安そうにしてるんだけど、いつも近くにいる飼育員が側についていると安心するんですよね。動物たちの、そういう繊細な気持ちを汲み取ってあげ、意思疎通できた時にやりがいを感じます。

_澤田さんくらいのベテランになると、人材育成のスキルも求められますね。
動物は基本素直で真面目なので、人間の方が大変です(笑)。動物の命と向き合う仕事なので、失敗してもやり直しが効く仕事でもないんです。訓練で、動物の気持ちや行動を良い方向に持っていくのは、経験を積むしかないんです。だから5年以上経験しないと、なかなか動物の気持ちや行動はわかりません。職人みたいなものです。
「俺らは休みもあって、行きたいところに行けて、したいことが自由にできる。でも、動物たちはここだけが居場所。365日24時間、僕たちの都合でここに居てもらっている。だからこそ飼育員・トレーナーとしてのスキルを磨くことは、動物たちの居心地の良さや楽しみ、ワクワクに繋がるよね」と、若いトレーナーたちには常に伝えています。
_求められているものは形がなくて見えないもの…。だからこそ教えるのはすごく難しいですね。
ゴールがないんですよね。コレができましたとか、アレを作りましたとか。僕らが追求しているのは、そういう形がないもの。昨年、トドの赤ちゃんを人工保育しました。母親のポロは「わからないことは無理!」とすぐに諦めてしまう性格の子。でも、彼女にとって長い目で見た時、壁にぶち当たっても、自分で考えて答えを出せるようにしていかないといけないよと、担当のトレーナーにアドバイスしました。トレーニングの時に、ちょっとづつ考えさせる機会を増やし、1年間、根気強くそれを続けたんです。そうしたら、今年生まれた赤ちゃんはしっかりポロの授乳で栄養をもらって元気に育ったんですよ。あれは、すごく感動的でした。この1年は無駄じゃなかったな…と実感した出来事でした。
生まれる命があれば、亡くなる命もあります。長年一緒に過ごした動物たちが亡くなっていく別れもたくさん経験しました。何度経験しても辛いしエネルギーがいる。それも動物の命を預かっている僕らの仕事の宿命だと感じます。
_まさに、子育てと一緒ですよね。すごく難しいですね。
そうなんですよね。いかにポジティブに動物を強化するか?自主的にやったことを伸ばすか?なんです。小さいときはなるべくポジティブに褒めてあげて、イヤイヤ期の思春期は多少距離をとりながらもダメなことはダメだときちんと伝える。そうすると、ベースはポジティブだけどダメなことはダメだと理解できるようになっていくんです。だけど、そのさじ加減は、動物それぞれ違うし、その時の状況で全く変わってくる。そこを作っていくのは、すご~く難しい…。そして、それを、経験の浅い若いトレーナーたちに言葉で伝えるのもまた、かなり難しいんですよね…。

詳しくはhttps://www.umitamago.jp/
_子育ての経験があるのと、ないのとでは違う気がしますね…すごく難しいですね。
僕自身、結婚して、子育てを経験したのは、とても大きいです。そういった意味でも、やっぱり母性がある女の子のトレーナーはちょっと違うんですよね。結婚して子育てしながら、トレーナーとして活躍するママもいますよ。
_ご自身の子育てに反映できることも多そうですね。
上は中3、下は4歳。上の子が生まれた時は、僕はまだ若かったし、仕事のことばっかり考えてたから一緒にいる時間が少なかった分、動物の訓練を反映できたことは少なかったと思いますし、トレーナーとしても半人前以下でした(笑) 今は、余裕もでき、4歳の子どもを見ていたら「そうやな、そうやな」ってうなづくことも多くて。今は、いい子育てができていると思います(笑)
_忙しいお仕事の合間で、リフレッシュする時間はありますか?
アウトドアが大好きなんです。海釣りだけじゃなくて渓流釣りも好きなので、釣りをした後、お気に入りのお店「3 CEDARS COFFEE」で買ったコーヒーを丁寧にいれて飲むのが至福の時間です。
_今後、挑戦してみたいことはありますか?
動物同士のコラボかな! 以前、セイウチが魚を飛ばし、玄太郎がキャッチするというパフォーマンスをやってたんです。でもそれは道具を使うものだったので、もっと動物同士の直接的な関わりの中で生まれるパフォーマンスにチャレンジしてみたいです!

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